がん患者支援助成 県内2団体 =香川
がん患者らを支援する公益財団法人「正力厚生会」が公募した今年度の助成事業で、県内からは孤立しがちな小児がん患者や家族を支援する「特定非営利活動法人未来ISSEY」と、闘病中の女性たちに悩みなどを共有する場を提供する「肺がん患者サロンなでしこ」の2団体が選ばれた。(尾崎達哉)
◇未来ISSEY 吉田ゆかり代表理事
◆入院中も学校とつながり
「入院中でも、社会とのつながりを諦めずにすむ環境を作る」
吉田さんの次男、一世君は、小学3年の時に小児がんと診断を受けた。本人に告知できなかった。周囲から耳に入ることを恐れ、知人や一世君の兄弟にも伝えられなかった。「誰の助けも借りられず孤独だった」
1年で寛解したが、再発。転院した岡山県の病院には週に2回、大学生のボランティアが訪れ、入院中の小児がん患者と交流していた。ボードゲームなどで学生と遊び、満面の笑みを浮かべる我が子に、自身も笑顔になっていた。遊んでもらっている間に、洗濯や買い出し、他の小児がん患者の家族との交流もでき、前向きになれた。「香川にもあればいいのに」
一世君は17年4月、11歳で亡くなった。17歳になったら、同じ交流会を作ると、吉田さんに夢を語っていたという。思いを受け継ぎ、18年秋、市民団体として設立。団体名の「ISSEY」は、一世君から取った。
大学生や高校生が病院の小児病棟を訪問する活動や、気持ちや時間に余裕がない家族に食べ物や入院生活に役立つグッズの差し入れをする。子どもの学校にロボットを派遣し、分身として修学旅行や卒業式に参加してもらう。吉田さんは「小児がん治療は、未来のために今を我慢するイメージがある。入院中も学校と関わることで、復帰しやすくなる」と話す。
今回の助成金35万円は、9月の小児がん啓発月間に商店街で開く啓発活動に充てる。「子どもが小児がんになっても、周囲に隠している人が多い。病気のことを知ってもらい、支援につながれば」と力を込める。
◇肺がん患者サロンなでしこ 中矢仁美代表
◆女子会みたいに話せる場
「『女子会』みたいに、がんのことを気軽に話せる場所にしたい」
中矢さんは2014年、肺がんと診断された。ステージ1だったが「死をイメージした」。手術後も再発を繰り返し、抗がん剤治療では副作用で苦しんだが、知人らに伝えることはできなかった。
副作用で入院していた時、親しくなった同じ肺がん患者の女性らが見舞いに来た。闘病生活について話したり、一緒にランチに行ったりするうちに「患者同士だからこそ歩調が合うし、当たり前のように病気を話題にできる」と感じた。同年9月、「女子会のような、がん患者仲間の集まり」としてなでしこを設立。サッカー女子日本代表の愛称から名付けた。全力でプレーする選手の姿を、懸命に闘病する自分たちに重ねた。
なでしこでは、オンラインで定期的に交流会を行う。肺がん患者を中心に、様々ながんに悩む女性たち17人が集まる。「手術の傷痕が引きつる時は」「抗がん剤治療で頭髪が抜けた時、おすすめのカツラと手入れ方法は」など、闘病の悩みが共有される時もあれば、日常の出来事をネタに、雑談に終始する日もある。
「同性だからこそ、なんでも話せる雰囲気ができて、仲間に加わる一歩を踏み出しやすい」と中矢さん。今回の助成金15万円は、患者交流イベントに役立てるという。「先が見えない病気だが、患者さんたちが『今が楽しい』と思えるよう、活動を続けていきたい」と話す。