助成事業

三田の団体 がん知識 プロとじっくり =兵庫

 ◆医師や社労士 15日第1回講演

 公益財団法人「正力厚生会」が公募した2022年度がん患者団体助成事業の助成金交付先に、県内からは3団体が選ばれた。

 このうち三田市のNPO法人「P.I.E.GROUP.SANDA(パイグループ さんだ)」は医療や薬、社会保険制度、緩和ケアなどの専門家を招いて講演会を開く。今月15日が1回目で、12月まで続ける計画だ。

 団体は2020年設立。「キャンサー・ピア・サポート」と題し、がん患者らが集まる会を毎月開いてきた。中心メンバーで、自身も乳がんのエリス希好子(きょうこ)さん(49)は「思いや悩みを共有し、前向きに生きる力を得られる場をつくりたかった」という。

 治療のつらさ、先行きの不安......。医師や家族に話せないことでも、同じ立場の安心感で打ち明け合ってきた。ただ、相談の内容が専門的になり、幅広い知識からの助言が必要な場面も多かったという。

 そこで計画したのが今回の講演会だ。「キャンサー・ピア・サポート」を発展させる形で2部構成とし、前半は医師や薬剤師、社会保険労務士ら毎回代わる講師の話を聞き、質疑応答にもたっぷり時間を割く。後半は参加者が語り合う。

 15日の初回は、三田市駅前町の市まちづくり協働センターで午後1時半から。鍼灸院を開く楊震傑さんから、自然治癒力を高める呼吸法などを学ぶ。

 「2人に1人ががんになる時代。患者でない人もぜひ参加してほしい」と希好子さん。団体名は、夫シェイーンさん(58)が母国の豪州で取り組んだ児童虐待や家庭内暴力の防止活動にちなむ。「防止」「介在」「教育」の英単語で頭文字をつなげたものだ。

 「特に『教育』を重視したい。知識を得て、備えをし、地域で伝えられる人を育てていければ」と話す。

 講演会の参加費は500円。問い合わせや申し込みはメール(apply@piesanda.jp)で。

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 県内では尼崎市の「Reborn.R」、神戸市の「ウェル・リビングを考える会」も助成金交付先に選ばれた。

 

 ◆ー病気の疑問待ったなしー◆

 三田市の「パイグループ さんだ」の語り合いに集う人たちは、お互いを「弱さを見せられる同志のような関係」と口をそろえる。

 その一人、三田市の50歳代女性は1年前に乳がんで手術を受けた。以来、ボランティア仲間にも必要以上に気を使わせている気がして「溝を感じ始めた」。治療の疑問点にも、「医者に従っておけばいい」と家族に言われたこともある。

 「病気について読書で勉強するしかなく、孤独だった」と話すのは、胃がんの手術から2年になる市内の70歳代男性だ。「妻に思いを聞いてもらっても、深い部分で理解を得るのは難しい」

 また、患者以外の参加者もいる。市内の40歳代女性は父をがんで失った。「告知から3か月でした。『もっと支えられたはず』と悔いが消えない」と涙ぐむ。

 病院の患者会が中止されるなど、居場所づくりにも制限が及ぶ新型コロナウイルス禍。「キャンサー・ピア・サポート」は、つながりを求める人々の心のよりどころとして、一定の役割を果たしてきた。

 それでも、エリス希好子さんは「もどかしさも感じていた」と打ち明ける。

 治療と仕事を両立できるか。抗がん剤の副作用がつらい。どんな支援制度を利用できるのか......。こうした専門的な内容では「助言に限界もあった」と言う。

 自身が乳がんの告知を受けたのは2004年。31歳だった。再発も経て気持ちの浮沈もあったが、親身に相談に応じてくれる医師にも恵まれ、「気付いたのは『治してもらう』という受け身的な考え方から転換する大切さです」

 自分の人生をどう形成していくかを考え、仕事を続けながらキャリアコンサルタントの資格も取得した。

 「キャンサー・ピア・サポート」に専門家を招くことにしたのは、そんな経験もあったからだ。「病気の疑問や悩みは待ったなし。素早く解消し、納得できる場にしたい」と説明する。

 正力厚生会による助成金交付先に選ばれ、今月15日にそのスタートを切る。12月まで毎月開催。「主体的に知識や生きる力を得て、濃い人生を送るきっかけにしてほしい」。希好子さんはそう願っている。 (竹村文之)