助成事業

4団体に助成 がん患者支援活動で =神奈川

 がんの患者団体を支援する活動に取り組む公益財団法人「正力厚生会」(辻哲夫理事長)が公募した2021年度助成事業の交付先が決まった。県内からは、一般社団法人「がんと働く応援団」(厚木市)、「AYA ジェネレーション+グループ」(海老名市)、「Tokyo OT ブレーンチューマーネットワーク」(川崎市中原区)、「リンパ浮腫ネットワークジャパン」(横浜市緑区)が選ばれた。4団体の活動を紹介する。
 
 ◆治療と就労 両立実現 
 ◇がんと働く応援団(厚木市)
 がん患者の勤務や就労を手伝うため2019年11月に設立。「抗がん剤治療で眉毛がなくなった男性に化粧の仕方を助言したこともあります」と吉田ゆり代表(39)が活動の一端を語った。
 PR会社で7年、人事担当をし、国家検定の2級キャリアコンサルティング技能士を取得。36歳で「厚木生活と仕事の相談室」を自宅で開設し、オンラインによる30分500円の1コインカウンセリングを始めた。
 その1か月後、卵巣がんが判明。病床で、「2人に1人はがんになる時代。主治医と会社の間で板挟みにならないように」と思った。勤務と治療の両立支援プランを主治医に作成してもらうため、情報を提供してもらう活動を始めた。
 社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー、歯科衛生士らがん経験者も多いメンバーと共に、約60人の就労を実現させてきた。3月にはがん判明時にどう動くかをまとめた冊子「がん防災マニュアル」も作成。「全国に配り、前向きな活動を広めていきたい」と吉田代表は笑顔で語った。
 
 ◆若い世代の患者つなぐ 
 ◇AYA ジェネレーション+グループ(海老名市) 
 思春期やヤングアダルトの頭文字を取った「AYA世代」は15~39歳を指す。その世代でがんになった人の親が作る会はあったが、「AYA世代の本人は対象外。孤立化する傾向にあった」と桜林芙美代表(40)が明かす。
 桜林代表も35歳で左乳頭にがんが見つかり、翌年に摘出したが、2年後に肺への転移が判明した。32歳でシングルマザーになり、発症時は5歳の双子と3歳の娘3人の子育ての真っ最中。両親も他界しており、ネットで情報集めをしながらの闘病と子育てに追われた。
 その経験から、AYA世代の患者らをつなぐ会を2019年に設立。「膨大な情報のどれを信じていいか分からない人も多い。簡潔で正しい情報を伝えたかった」。がんを克服した人にも加わってもらおうと、団体名に「+」を加えた。
 会員は設立時の181人から倍増。他団体や医療関係者、患者以外のAYA世代にも交流を広げるつもりだ。「コロナ下で会えない状態でこそ、私たちの活動の真価が発揮されるはず」。力強く締めくくった。
 
 ◆脳腫瘍 リハビリ支える 
 ◇Tokyo OT ブレーンチューマーネットワーク(川崎市中原区) 
 人口10万人あたり6例未満しかない希少な難治がん「脳腫瘍」の患者や介護者をサポートしようと、2016年2月に発足。作業療法士(Occupational Therapist、OT)や看護師ら8人が中心となり、介護者が経験や知識を共有する勉強会を開くほか、家でできるリハビリ法を患者に紹介するなどの活動をしてきた。
 桜井卓郎代表(47)は作業療法士として、都内の病院でがん患者の日常生活の動きのリハビリを担ってきた。「脳腫瘍は脳梗塞(こうそく)と同じと思われるほどマイナー。障害が多様で、他のがんと必要な支援が違うが情報が足りなかった」と訴え、余命宣告された患者と、社会復帰を目指す患者の両方への支援に乗り出した。
 今年は新たに就学・就労で必要な支援や自宅の改修、福祉用具の使い方など生活支援のパンフレットを作成し、年末をめどにホームページなどで公開を始める予定。桜井代表は「退院してからが真のスタート。患者の要望に応えられるよう、専門知識をつけて介護者の能力向上に役立てたい」と話した。
 
 ◆治療後むくみ 情報共有 
 ◇リンパ浮腫ネットワークジャパン(横浜市緑区) 
 リンパ管の損傷などにより、リンパ液が体内にたまり、腕や足にむくみや痛みが出る「リンパ浮腫」。がん治療後に発症することが多いこの病気に悩む患者の支援などを行っている。
 同団体によると、むくみで手の指が普段より幅3センチほど太くなったり、痛みで衣服の着脱も難しかったりすることも。決定的な治療法はないが、命に直接関わるわけでないため社会的な認知が進んでいないという。
 岩沢玉青代表(50)は2013年に乳がんの手術直後に発症。その約2年半後に悪化し、40度近い高熱が出て左腕が腫れた。だが情報が少なく、片っ端から病院に電話をかけ続けるしかなかった。「一番欲しいのは正しい情報。そして、患者がどう歩んでいるか知りたかった」と話す。
 その経験から、19年に団体を設立。病気に関する情報サイトの運営や、患者と医療者の情報交換の企画などを行ってきた。岩沢代表は、「リンパ浮腫に関わる全ての人が困ることなく笑顔で安心して過ごせるようにしたい」と語った。